大判例

20世紀の現憲法下の裁判例を掲載しています。

福島家庭裁判所 昭和53年(家)110号 審判 1978年5月01日

申立人 黒田きみ子

利害関係人 佐藤美智子

事件本人 黒田仁志 外一名

主文

利害関係人の事件本人両名に対する親権の回復を許可する。

理由

一1(1) 事件本人両名は利害関係人と亡黒田誠との間の子である。

(2) 利害関係人と誠は昭和四八年九月七日協議離婚し、その際事件本人らの親権者を右誠と定めた。

(3) 誠は同五三年一月八日死去し、以後事件本人らの親権を行使する者はいない。

2 利害関係人は同年三月一五日当裁判所調査官に対し事件本人らを監護養育する意思を表明している。

二1 本件のように夫婦が離婚するに際し、その一方を子の親権者と指定し、その親権者が死亡した場合、他の一方に何らかの形で親権を復活させることについては現行民法には直接の規定はない。したがつて現在の一般の取扱いは民法八三八条一号により親権を行う者がないときとして後見人を選任することとしている。

2 なるほど後見人のおこなう後見事務には民法八五七条によつて未成年者の身上につき親権者と同一権利義務が含まれ、また同法八五九条により同様に未成年者の財産管理権を行使することもでき、この意味においては後見人は親権者と同一の権利義務を負うものといえる。しかしながら後見人にはとくに親権者にない権利義務として、財産調査、目録調製義務(民法八五三条)、目録調製前の行為制限(八五四条)、債権債務申告義務(八五五条)、身上行為についての制限(八五七条但書)、支出金額予定(八六一条)、報酬取得権(八六二条)、後見事務の監督(八六三条)、法定代理権等の制限(八六四条、八六五条)後見事務終了に際しての管理計算義務(八七〇条)等々が付加されている。

このような後見人の特別権利義務は親として未成年者を監護養育する者に課するには不適当である。

3 本件の場合のように親権を行使する親が死亡した時、他の一方の親に当然親権が復活するとする考え方もあるが妥当ではない。なぜなら、親権はやはり親子としての情愛の念を基礎とするものである以上、父母の離婚後の年月の経過、状況の変化でつねにこのような感情的要素が保持されているとは限らないからである。

4 しかし離婚に際して父母の一方を子の親権者に指定するとの民法八一九条の規定は父母の共同生活解消による親権行使の複雑化を解消する趣旨ではあるが、その実体においては親権を失う親における親権の辞退とみることができる。したがつて本件のような場合親権を失つた親において再度親権を行使する意思があるときには民法八三七条二項を準用して家庭裁判所の許可によりその親権を回復できるものと解するのが相当である。

三 本件においては事件本人らは父誠の死亡後すでに母である利害関係人に引き取られて同居(ただし、事件本人敏也は稼働の都合上肩書住居に別居)し、その監護養育に服しており、また利害関係人も再度親として事件本人らを監護養育する意思を有し、かつその旨を当裁判所に表明しているので、あえてこれを後見人として選任するよりは通常の親子としての情愛にもとづく親権者として監護養育にあたらせる方が相当と認められる。

四 よつて民法八三七条二項を準用し、家事審判法九条一項甲類一三号、家事審判規則八一条、七三条により主文のとおり審判する。

(家事審判官 福島重雄)

自由と民主主義を守るため、ウクライナ軍に支援を!
©大判例